いじめ対策

犬山 翔太
 
 ついに校長になる日が来た。
 私は、有頂天になっていた。ミスト星という聞いたことがない星とはいえ、校長という地位は、中学校の教員になってからずっと追い続けた夢だった。

 ミスト星は、私が予想したよりも小さな星で、3年くらい前まで内戦が続いていたという。
 地球では2100年以降、内戦と呼ばれるものが起こっていない。だから、なかなか想像がつかないが、地球よりは人心が荒廃しているのかもしれない。

 私の小さな不安は、ミスト星の中学校赴任後、日を追うごとに大きくなっていった。
 地球に比べて圧倒的に、いじめが多い。いじめのないクラスなど皆無であり、日々誰かが教室の片隅でいじめられている。
「やめなさい。いじめられる方の苦しみを考えなさい」
 私は、いじめを見かけると、ありきたりの言葉をかけて、いじめをやめさせて、二度としないように注意した。
 しかし、翌日、同じ教室の前を通ると、また同じようないじめをしている。
「昨日、いじめちゃ駄目だ、って言ったじゃないか。どうしていじめるんだ」
 私が怒鳴ると、いじめていた学生たちは、口々に言い返した。
「だって、こいつが生意気なことばかり言うから」
「一緒に楽しく遊んでいるだけじゃないか」
「しゃべり方が気持ち悪いんだ」
「不潔なんだもん」
「単なるプロレスごっこをやってただけだよ」
 どの教室のいじめっ子からも、返ってくる答えは、似たようなものだった。

 口だけで言っても無駄だと悟った私は、校長の特権を生かして、いじめっ子たちだけでクラスを作り、いじめられっ子だけでクラスを作ってみることにした。
 最初は、それでうまく行くかに思えたが、しばらくすると、いじめっ子だけのクラスでも、いじめられっ子だけのクラスでもいじめが起こった。
 もはやミスト星人は、そういう人間たちなのだ、と考えるしかなかった。

 そうなれば、ミスト人たちが満足するようないじめられっ子を与えてやればいい。この頃から私の考えは、狂った方向に進んでいたのだろう。
 私は、地球に依頼して、少年犯罪を犯した中学生をミスト星に送り込んでもらい、1クラスに1人、その中学生を配置した。
 異人種でほとんど言葉が通じず、しかも転校生。いじめられる条件としては適していたし、服役中の中学生なのだから、罪を償う意味では最適なはずだ。

 私の目論見は、うまい具合に現実のものとなった。ミスト星人たちが結束して仲良くなり、地球人たちをいじめ始めたのだ。
「ミスト星人は、すぐに僕をいじめてきます。何とかしてください」
 地球人学生は、私に泣きついてきたが、私は、こう答えた。
「我慢しなさい。いじめられたくなければ、ミスト星人と仲良くできるように努力すればいい」
 私としては、ミスト星人学生が地球人学生と仲良くしてもらうに越したことはなかったが、このままでも仕方がない、という思いもあった。

 しかし、半年くらい経った頃、事態が急変した。
 私が仕事を終えた帰り道に、後ろから何者かに生卵をぶつけられたのが悪夢の始まりだった。翌日には、私が学校の裏庭で育てていた花がばっさり切られていた。
 その後は、運動場で落とし穴にはめられたり、車の窓ガラスがすべて割られたり、という悪質ないたずらが頻発した。さらには、私の電話には非通知の無言電話が深夜にもかかってくるようになり、メールには差出人不明の迷惑メールが頻繁に送られてくるようになった。そして、階段から突き落とされたり、トイレで用を足している途中に上から大量の水をかけられたりする仕打ちを受けて身に危険を感じた私は、ついに緊急の全校集会を開くことにした。

「この学校では、ひどいいじめやいたずらが頻繁に起こっています。最近では私に対するいたずらが度を越しており、警察沙汰になってもおかしくありません。このようないたずらをした者は、ただちに申し出なさい」
 私は、厳かな表情で学生たちに訴えかけた。
「何を言っているんだ、ばかやろう。地球人をクラスに1人入れて、いじめを引き起こすようにしたのはお前じゃないか」
 学生の誰かが叫んだ。
「そうだ、そうだ。お前が悪いんだ」
 学生たちの怒号が響いた。そして、靴や帽子やカバンやボールなど、学生たちが持っているあらゆるものが私の方に投げ込まれた。

 どうやら、私の目論見がどこかから学生たちに漏れ、憤ったミスト星人学生と地球人学生が結託して、怒りの矛先を私に向けていたのだ。私は、次々と飛んできた物が頭に当たって、その場に倒れこんだ。

 地球人の少年犯罪者をミスト星に連れてきたのは完全に間違いだった。
 私は、後悔しながらも、地球人の中学生を地球に帰すのにはためらいがあった。地球に帰してしまえば、私のミスを認めることになる。
 そうなれば、私が苦労して手に入れた校長という座を手放すことになる。

 学生たちの私に対する横暴がこれ以上エスカレートしないうちに何らかの対策を講じなければならない。
 横暴な学生たちから私へのいじめをやめさせるには、私もいじめる側に回る必要がある。そのためには、何とかして学生たちのターゲットを私から他の人間へ向けさせなければならない。
 その瞬間、私の脳裏には、私を普段からバカにしている禿げ上がった教頭の顔が浮かんだ。







(2012年7月作成)




犬山ノート:
 また、いじめ問題が世間を騒がせています。何年かに1回は、必ずいじめが社会問題となります。しかも、一向に解決せず、学校や警察、自治体、国は責任から逃げ合い、また次々と同じようないじめを引き起こします。
 いじめがなくならない原因は、学校生活が学生に与える多大なストレスと、学校にはいじめ以上に魅力的なものがないことだと考えています。現状では、学校という枠組みをなくすこと以外、いじめをなくす方法がないのかもしれません。


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