×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

正当な評価

犬山 翔太
 
 記者は、J博士の家を探していた。優秀な博士だけに大邸宅に住んでいるのだろうと目星をつけていたが、実際探し当てた家は、あまりにもみすぼらしかった。
 J博士は、よれよれの普段着のまま記者を迎えた。
「ようこそ、お越しくれた。まあ、ゆっくりしていってください」
「尊敬する博士にお会いできて光栄です」
 博士は、はじめて笑顔を見せた。
「最近は、あまり取材にも来てくれないのでね。今回の発明も、取材してくれるか心配してたんだ」
「博士は、他人にはできない様々な発明を残していながら、正当な評価を受けてこられていませんよね」
「ああ、それは、仕方ない。発明した商品が売れなければ、どれだけ優れたものでも認められないのがこの世の定めだ」
 博士は、近頃の拝金主義を嘆いた。

 突出した芸術家は、生前に評価されず、没後に高い評価を受けることが多い。博士も、きっとそういうタイプなのだ。
「たとえば、視力が正常視力の五百倍になるという人口眼球ですが、これは、世紀の発明と言われながら、すぐに評価が下がりましたね」
「あれは、確かによく見えるようになるのだが、あまりにも見えすぎて人の毛穴や埃、ダニ、ノミなど、見たくないものまではっきりと見えてしまう」
 記者は、寒気を感じながら答えた。
「それは、ちょっと気持ちが悪くなりますよね」
「だから、ほとんど売れなかった。好奇心で自分の眼球と入れ替える手術をした者も、すぐに元に戻してくれ、と言ってきたからね」
「次に発明したのが、正常聴力の五百倍よく聞えるという人工耳です」
「これも、あまりにも聞こえ過ぎて、売れなかった。何せ隣家の話し声はもちろん、数キロ離れた犬の遠吠えや電車の音、飛行機や雷の音まではっきりと聞こえる。自分の耳と付け替えた者は、不眠に悩まされて、すぐに元に戻してくれ、と言ってきた」
「そして、どんな匂いでもかき分けられる通常の五百倍の嗅覚を持つ鼻というのもありましたね」
「あれも、評判が悪かった。いい匂いでも、あまりに強すぎると不快になる。ましてや、トイレや人ごみの不快な匂いなら、なおさらだ。多少は犯罪捜査の面で役に立ったようだが、一般庶民にはほとんど受け入れられなかったよ」
 便利すぎると、逆に不便を感じてしまうことも出てくるのだ。

「そして、極めつけは、通常の五百倍の味覚を持つ人工舌の発明でしたね。あれは、私もほしくて、ほしくて。結局、資金不足で断念しましたが」
「うむ。あれは、食材の産地はおろか、どの成分がどれだけ入っているかさえ分かる優れものだった。しかし、人工舌にする手術をした者の評判は悪かった。近所で買う惣菜や妻の手料理があまりにまずくて食べられなくなった、とね。美味なものは、さらに美味に感じるが、まずいものはさらにまずく感じてしまう。一般庶民には無用の長物だったわけだ」
「確かに、発明の内容は、どれも素晴らしいものばかりですがねえ」
「そこでだ。今回、わしは、究極の発明として、優秀な人間の五百倍の能力を備えた人工脳を作り出した」
「なるほど。それは、さすがに世間の高い評価を得られるでしょう」
「しかし、少し問題がある」
「それは、どういった?」
「極めて優秀な人工脳だけに、この星の百年後、千年後といった遠い未来さえも考えてくれる。そうすると、ひとつの厄介な結論へ導き出すのだ」
 博士は、一息入れて遠くを見つめながらつぶやいた。
「この星の未来を明るくするためには、人類を滅亡させることだ、という結論にね」






(2011年10月作成)




犬山ノート:
 以前、エジソンが発明家として突出して有名になったのは、自らが発明したものをビジネスに結び付けて売り出す手腕に長けていたからだ、という話を聞いたことがあります。
 世の中には、実力以上に評価される人と、実力があってもほとんど評価されない人がいます。実力も、使い方によって大きく評価が変わってくるわけです。それに加えて、便利すぎる不便というのを結び付けてみました。


Copyright (C) 2009- 究極のストーリー All Rights Reserved.