特殊な住人

犬山 翔太
 
「船長。この星の調査結果は、このようになりました」
 セサル星からやってきた宇宙船の中で船員が壁の大画面を指差した。
「なるほど。この星は、文明もなかなか高度で、人口も約100億人に達しているのか。わが星の宇宙貿易にとって、かなりの利益が見込めそうだ。わが星から外交員を派遣して貿易を開始させようか」
「でも、いくつか問題があります」
「放射能か」
 船員は、厳しい表情でうなずいた。
「1つは、わが星の千倍にあたる放射能が星全体を覆っています。その星の住人は、汚染されているわけですが、防護服も着けずに暮らしているのです」
「信じられないな。住人に健康被害は出ていないのか?」
「長期的に見ると、被害は出ています。しかし、ただちに健康に影響は出ないので、見過ごされています。それに、他に住み替える場所がもうありません。とはいえ、長年、汚染されて暮らしてきているだけに、わが星の人間より、かなりの耐性があるようです」
「そうか。外から見ると、きれいな星なのにな」
 船長は、見とれるほど美しいその星を窓から眺めながら、ため息をついた。
「でも、そこは、今後の調査により、医療の発展に生かせそうだ」
 船長の前向きな言葉に、船員は、慌てた。
「放射能以外にも問題はあります。この星の住人は、普段は温厚で目立たない者が突如、凶悪犯罪を起こす事例が多々あります」
「それも厄介だな。原因はつかめていないのか」
「はい。家庭環境や病気、社会での人間関係など、さまざまなことが原因として論じられてはいますが、あくまで推測の域を出ず、特定することはできません」
 船長は、頭を抱えた。
「そんな事例は、わが星でも、他の星でも聞いたことがない。これを解明するのは、並大抵のことではないぞ」
「私もそう思います。ごく一部の地域では紛争という際限ない殺し合いも起きたりしていますから」
「恐ろしい話だな」
 そう言ってから船長と船員は、しばらく黙りこんだ。セサル星では、ここ数十年、殺人という犯罪が起きていない。それゆえに、想像しようとしても、底知れぬ恐怖を感じるだけで、光景が浮かんでこないのだ。
「他にもあります。たとえば、この星の住人の多くは、結婚するとき『相手のすべてが好き』と言って結婚するのですが、その半数近くが後に『相手と価値観が違う』と言って離婚します」
「そんな矛盾がどうして起きるのだ?」
「それも解明されていません。解明できれば、離婚が激減するはずなのですが、実際は増加する一方のようです」
「これも、綿密な研究が必要になるのか……」
「まだ他にもあります。たとえば……」
「もういい」
 船長は、船員の言葉を遮った。
「この星と貿易をする話は、当分の間、見合わせよう。この星の住人は、あまりにも特殊すぎる。多くの利益を得る前に、多くのトラブルを抱えてしまうのが関の山だ」
「そうすると、この星は、無視しておけばいいのですね」
「ああ。この星は、なぜか時折、近くの星まで宇宙船を飛ばしたりしているが、大きな害を及ぼしているわけではない。放置しておけばいいだろう。他にもっと正常な星は、探せばいくらでも見つかるだろうから」






(2011年10月作成)




犬山ノート:
 2011年3月11日の東日本大震災とそれに続く原発爆発によって、日本人の原発に対する価値観は180度変わってしまいました。
 それでも政府は、電力会社や御用学者を使って情報を巧みに隠ぺいしながら、パニックになるのを抑えています。
 それにからめて、人間の抱える矛盾や愚かしさを加えてみると、宇宙人には、この星を理解するのは困難だろうという結論に達してしまいます。



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