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活発な社会

犬山 翔太
 
 休日の朝、私は、警察からの電話で目覚めた。
「おたくの息子さんを銀行強盗の容疑で逮捕しました」
 にわかにそんな話を信じるほど、私も、だまされやすくはない。
「失礼ですが、息子の名前はご存知ですか?」
 振り込め詐欺によくある手口かもしれないから、確かめておかなければなるまい。
「サムさんです。25歳で無職、10代のとき2度の補導歴がありますね。今、うちの署で身柄を確保していますので、すぐに来てもらえませんか?」
 向こうが出してくる情報は、すべて真実だった。
 外が騒がしいので窓からのぞいてみると、数社のマスコミと野次馬が集まり始めている。
 どうやら、息子が銀行強盗を起こしたのは確かなようだ。
 私は、ため息をつきながら返事をして電話を切った。

 しかし、どうしてこのような事態になってしまったのだろう。私は、家族4人の楽しい生活を望んでいたのに。
 私が結婚したのは、50歳の頃だった。48歳の女性と結婚して、親から自立した。
 50歳での結婚というのは、当時の平均結婚年齢より低かった。2100年を過ぎた頃から、男女ともに初婚の平均年齢が50歳を超えて、少し社会問題となったのだ。
 年々進む職業での男女同権と拝金主義の価値観によって、40代までに結婚をする男女は、ほとんどいなくなり、結婚というものにメリットを感じなくなった。
 男女ともに、性欲は、3Dのビデオや風俗で満たすようになり、結婚願望は、疑似家庭を体験できるゲームソフトで満足するようになったのだ。家事は、すべて機械で自動化されているし、子供も、幼いまま成長しないロボットが発売されたことで、今やあえて産もうとする者もいなくなった。

 とはいえ、それで困ったのが国である。国民の平均年齢が70歳を超え、10代以下の人口が1%を切るという非常事態に陥った。そこで国は、国家事業として子供を産み、育てるプロジェクトを始めたのだった。
 どういう仕組みで子供を産ませているのかは不明だが、国が産ませた子供を誰もが購入して、自分の子供として育てることができるようになった。

 祖母に理想の家庭についていろいろ聞かされていた私は、妻と相談して理想の家庭を築くべく、まず長女の娘を購入し、その3年後に長男の息子を購入した。そうして誕生した4人家族は、私にとって、人生に大きな幸福をもたらしてくれるはずだった。

 しかし、息子は、中学生になってから不良の道を歩き始め、高校を卒業してからも定職に就かず、悪い仲間と連れ立っては遊び歩く日々を過ごしていた。
 いつか、こんな日が来るかもと、想像はしていたが、実際、こういう事態に直面して見ると、大元の原因は、こんな息子を売りつけた国に怒りをぶつける他ない。

 私は、警察署でいろいろ事情を聞かれた後、その足で息子を買った国営子供販売所へ立ち寄った。
「どう責任をとってくれるんだ。ここで買った息子が強盗をやらかしてしまった。おかげで私は、犯罪者の親になったではないか
「それにつきましては、当販売所は一切責任を負わない契約になっております」
「だが、そんな子供を売りつけておいて、こうなる可能性を一切話さなかったじゃないか」
「可能性で話はできません。子供の未来を私たちが予測することはできませんから」
 相変わらず、国は、いつも事務的な対応に終始する。
「それじゃあ、私がもっとうまく育てれば、息子は、立派な高級官僚に育ったとでも言いたいのか」
「そこまでは言えませんが、育て方によって変えることはできたと思います。でも、あなたは、娘を高価な金額で買ったわりに、息子は安価な金額で買ってますね」
「ああ、当時は、息子を高価な金額で買うお金がなかったので、最も安い金額で買ったのだ」
「なるほど。それでは仕方ありません。購入時に、この購入説明書をお読みになられましたよね」
「いや、読んでない」
「ここにこんな説明が書いてあります。父親か母親の一方が犯罪者です、と」
「何という……。そんな子供を国が売りつけるなんて、言語道断だ」
「いえいえ、それは、買う方が判断すべきことです。優秀な人ばかりでは活発な社会は成り立ちません。こうしてあえて一定の悪人を作り上げることで、社会のバランスを維持しているのですから」







(2011年10月作成)




犬山ノート:
 20世紀終盤のバブル崩壊と男女同権。この2つがきっかけとなって、男女ともに、地道に細々と働き続けるようになり、国は、有効な打開策を生み出せないまま、不況は長引き、晩婚化と少子化が進みました。
 ペット販売のように、もし人間の子供を売ったとしたら、どれだけの独身者が買うのかな、と考えていたら、このような作品になりました。


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