×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

職業野球

犬山 翔太
 
 僕らの野球チームは、プロ意識が強い。もちろん、プロ野球のように超人が集まった集団ではないけど、魅せることにかけてはプロ野球にも勝るとも劣らぬ意気ごみを持っている。
 一応は、会社公認の野球チームだ。でも、僕らは、会社の力を借りてお金を支援してもらい、また野球をすることで会社の利益に貢献する、ということは目指していない。
 あくまで、僕らの力だけで観客から収入を得られるチームを目指している。やっぱりやるからには大きな目標がなければ面白くない。健康のためとか、純粋に野球が好きだから、なんて標準的な理由だけでやっていけなくはないけど、夢は大きい方がやりがいがある。

「今度の日曜日には、日本リースと試合をすることになったぞ。あのチームは、都市対抗野球で優勝したこともある強豪チーム。勝てば名をあげられるから頑張ろう」
 監督が持ってきた話は、久しぶりにいい条件だった。外野フライもろくに捕れないようなチームと試合をさせられたり、強いとは言っても少年野球チームとの試合だったり、とここのところ、熱く燃えるような試合はしてなかった。
「じゃあ、今度の試合は、ベストメンバーで挑むということですね」
 僕は、うきうきしながら言った。
 僕は、こう見えてもこのチームのエースだ。打順は三番。少年野球だとエースで四番というのがうよいよいるけど、僕も少年時代はエースで四番を務めていた。
 今でも本格的に打撃練習だけに打ち込めば、四番を打てると思う。一度監督に四番を打ちたいと言ってみたことはあるけど、許してくれなかった。
 四番には長打力抜群の佐藤がいる。僕にそれ以上、四番を主張するほどの話でもなかった。
「もちろんベストメンバーで行くことになるが、いつもと違い、いろんな奇襲作戦を使って何としても勝ちに行く。心してほしい」
 待ちに待った試合が来た。
 日本リースは、昔は強豪チームだったが、最近は、あまり名前を聞かなくなっていた。練習を見てみるとその理由は明らかになった。不況によって選手数が少なくなり、レベルが落ちているのだ。
 社会人野球の名門チームでも最近は野球部廃止が続出している時代だ。選手数を減らされて存続しているのはまだましな方なのかもしれない。
「これは、結構いい勝負ができるかもしれないな」
 僕は、四番の佐藤に言った。
「うん。あの投手の球なら打てそうだ」
 ただ残念なのは、地方の小さな球場でしかできないことだ。僕たちのような実力を持っているセミプロの野球選手なら、もっと大きな球場で試合ができてしかるべきではないか。
 でも、現実は、厳しい。大きなドーム球場でやるプロ野球や甲子園でやる高校野球の全国大会みたいに数万人が集まってくれることなんて、夢のまた夢。
 狭い地方球場を借りて試合をしても、観客が少なすぎて元をとれた試しがない。

 今日の試合も閑古鳥が鳴いている。でも、僕らは、プロ意識を持って、全力でプレーする。見てる人がどんなに少なくても華麗なプレーを見せ、持てる技術のすべてを出す。
 監督だって、むざむざと負け試合を作ったりしない。早め早めの継投で、最後まであきらめたりはしない。
 今日は、観客には最高の乱打戦になった。僕も一本三塁打を放って、三塁ベースへ派手なヘッドスライディングをした。
 スコアは、八回が終わって六対七。僕らは一点負けている。それでも九回裏ノーアウト二・三塁のチャンスで打順は僕に回ってきた。最低でも犠牲フライで一点。逆転のタイムリーヒットならヒーローだ。あわよくば試合を決めるスリーランホームランだって狙える。
 僕は、意気込んでバッターボックスに入る。
 でも、ここで監督が出てきてタイムをかけた。全くもう。一番気合の乗っているときなのに、しらけるようなことをして。まさか、ここで僕はお役ご免?
「監督、僕に代打ですか?」
「いや、お前は、そのまま打てばいい」
「何か、アドバイスでもあるんですか?」
「いや、特に何もアドバイスはない」
「じゃあ、どうしてタイムをかけるんですか。せっかく勢いづいて盛り上がっているときなのに」
 僕は、審判に文句をつける選手のように怒鳴った。でも、監督は、スタンドを見渡しながら静かに言った。
「まあ、試合の流れをせきとめて悪いとは思うけどな。いかんせん、今日の観客はたった一人じゃないか。その一人がトイレに行っているときくらいは、わしらもプレーはできん。観客あっての商売だからね」






(2010年4月作成)




犬山ノート:
 高校時代の教科書で読んだ井上ひさしさんの『ナイン』。故郷や幼馴染の人情と野球を軸に人を信じる心と都会化で希薄になる描き出した作品で、私は、高校時代に読んだ本の中で最も記憶に残っています。 いつか、こんな作品を描きたいと、今でも思い続けています。
 今回の作品は、野球人気の土台を支える人々を描いてみたい、ということで描いた作品です。昨今の地元に密着した独立リーグの活動も、さらなる野球人気向上へ期待していきたいですね。


Copyright (C) 2009- 究極のストーリー All Rights Reserved.