苦渋の決断

犬山 翔太
 
 地球が宇宙人に侵略された。全く想像もしなかった事態が起きたのは、わずか五年前のことである。
 核兵器とは比較にならないほどの性能を持った小型爆弾を積み込んだキラ星人が地球を訪れた。地球人にとっては初めての経験で、外交は、どの国が主導するかでもめているうちに、しびれを切らしたキラ星人は、こう最後通告した。
「この爆弾一つで地球全土を爆破することができる。今日中に地球人が無条件降伏をしなければ、爆破を決行する」
 その言葉に驚いた各国首脳は、すぐに意見をまとめて無条件降伏をした。
 翌日から地球は、キラ星人の言うがままとなった。各国の法律は、すべて破棄となり、キラ星人が持ってきたキラ星の法律ですべてを運営することになった。
 日々、キラ星人が地球へ流入してきて、やがて地球人よりキラ星人の人口の方が多くなった。
 
 キラ星人の見た目は、地球人の大人の半分より少し大きいくらいで、腕力は地球人よりもかなり劣っていた。だが、キラ星人の知能は、地球人の数倍から数十倍はあった。そして、何よりキラ星人は、地球を一回で爆破できる小型爆弾を保持している。

 そのため、地球人は、キラ星人の家畜となり、キラ星人の言う通りに働き、キラ星人が与える物を食べて、キラ星人が引き合わせる別の地球人と結婚する。そんな生活は、それまで地球で横暴の限りを尽くしてきた地球人にとっては苦痛以外の何物でもなかった。しかし、地球人は、キラ星人に逆らうことができない。
 
 地球は、キラ星人がすべての情報を握るようになったので、地球人には世界情勢が分からなくなったが、噂ではキラ星人を殴ってしまった地球人は死刑となったそうである。また、キラ星人を殺害してしまった地球人は、その家系の者全員が処刑されたようだ。

 一つの家庭において、地球人の腕力で、主人であるキラ星人を屈服させることは簡単である。しかし、地球爆破という最終手段をキラ星人が持っている以上、地球人は、どうすることもできないのだ。

 そして、地球人にとって、恐れていたことが起こった。新型ウイルスが地球全土に蔓延し、多数の死者が出たのである。それは、これまでに流行してきたインフルエンザとは比較にならないほどの猛威だった。
 私は、キラ星人が新型ウイルスを壊滅させる特効薬を開発してくれるものとばかり思っていたが、その開発は、困難を極めているようだった。

 そして、昨日、キラ星人は、地球人に向けてこんな発表をした。
「地球人に流行している新型ウイルスが突然変異を起こし、我々キラ星人のうち二人が感染した。今まで特効薬の開発に取り組んできたが、もはや開発が間に合わない。現状を打開する方法は、一つ。全地球人の殺処分である」
 その発表に地球人は、当然、猛反論した。そして、かつて超大国で大統領をしていた地球人が代表として、キラ星人の幹部に直訴することになった。
「地球人の感染者を隔離するというのなら理解できます。しかし、殺処分する必要はありません。あなたがたがやろうとしていることは、虐殺です」
「いや、我々、キラ星人の命と安全を守るためには仕方のない判断だ。このウイルスは、潜伏期間が長い。隔離で解決できるようなものではない」
「あなたがたには、命の尊さが分からないのですか?」
「我々キラ星人も、命の尊さは理解できる。だから、キラ星人も、キラ星人を殺害したら死刑だ」
「それなら、なぜ我々を」
「お前たちは、キラ星人ではない。今のお前たちは、お前たちが自由に殺処分してきた牛や豚、犬や猫たちと同等の立場ということだ。
 それに、お前たちも、かつて鳥インフルエンザが流行したとき、感染してない鳥たちもすべて殺処分にしたではないか」
 地球人代表は、言い返せなかった。 
「だから、我々は、尊いキラ星人の生命を守るために、地球人全員を殺処分するという苦渋の決断をしたのだ。その決断に間違いはない」




(2010年1月作成)




犬山ノート:
 2009年、愛犬を保健所で殺処分された仇討として元官僚等を殺傷する事件がありました。事件そのものは、許しがたい凶悪事件なのですが、裁判で大きな議題となった命の尊厳のやりとりに私は、衝撃を受けました。
 人の命、ペットの命に重さの違いがあるのはどうしてなのか。
 人間が他の動物を思いのままに殺処分できるのは、人間が地球を支配している、という思い上がりやエゴイズムが生み出したものでもあります。
 こうした思い上がりやエゴイズムは、環境問題についても言えることですが、人間が地球の生態系や自然を壊し続ける現実は、未来によからぬしっぺ返しが待っているのではないかという不安にとらわれてしまいます。


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