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かすかな疑念

犬山 翔太
 
 風呂から出た僕は、テレビをつけて一息ついた。この時間にやっているニュースを見てから寝るのが日課となっている。
 ニュースは、女性の凶悪犯が繁華街で暴れて十人以上を殺傷した話題でもちきりである。
 そういえば、先週は、数多くの男性と関係を持っていた女性が住む邸宅の庭から六人の男性の遺体が見つかったというニュースが世間をにぎわしていた。
「怖い世の中になったものだ」
 年々増える凶悪犯罪の数。しかし、不思議なことに男性の犯罪が減少傾向にあるのに対し、女性の犯罪は増加傾向にあるという。
 時代の移り変わりと言ってしまえば簡単なのかもしれないが、過去にはこうなるなんて誰も想像していなかっただろう。

 女性を男性と平等に。そんな思想が20世紀の終わり頃から社会に浸透し始め、21世紀半ばには女性が男性と同じように働き、平均年収も男女が等しくなった。
 僕の家庭の場合、妻の方が年収は上だ。僕が不甲斐ないと言ってしまえばそれまでだが、妻は、服飾業界で有名な大企業の重役に就いている。私は、中小企業の主任だから、毎日、私の方が帰りが早い。
 おそらく、今日も、妻は、取引会社の接待とやらで、繁華街の料亭で食事をしているにちがいない。家で食べるとは言っていたが、いつも予定通りになるわけでもなく、今日は、おそらく急に仕事が入ったのだろう。

「それにしても遅いなあ」
 僕は、先に寝るわけにもいかず、妻が帰ってくるまで待っている。少なくとも、それが妻に対する礼儀だと考えているからだ。
 午後十一時を過ぎた頃、ようやく玄関のドアが開いた。妻が帰ってきたようだ。
「おかえり。夕食は?」
「もう食べてきたわ」
「作ってテーブルに置いてあるのはどうしようか」
「明日の朝、食べてくから冷蔵庫へ入れておいて」
 さすがに毎日夜遅くまで働いているのか、妻は、疲れているようだ。声に張りがない。
「風呂も沸いているからね」
「ありがとう。すぐ入るわ」
 僕の祖父母やもっと前の時代とは、夫婦の立場が入れ替わっている。
 でも、それが僕にとっては心地がいい。そういう時代になったのだ。

 妻が風呂へ向かうため、僕の隣を通り過ぎた時、かすかに別の男性の匂いがした。少しおかしい。接待の相手は、いつも女性のはずだ。今は、会社の幹部になっているのは、まず間違いなく女性だ。
 なのに、どうして男性の匂いがするのか。
「お前、今日はどこで食べてきたんだい?」
 妻は、なぜ知りたいの?とでも言いたげに面倒そうに振り返った。
「ほら、駅前に去年出来た料亭よ。鍋がおいしいのよ」
 違う。あそこは、店員も全員女性だったはずだ。妻は、何かを隠している。これは、れっきとした浮気ではないのか。
 そのとき、隣の部屋で子供が泣いた。働きづめの妻よりも、僕になついている子供だ。僕の体に人工子宮を埋め込み、僕が代理出産した子供なのだから、なついて当然と言えば当然だ。愛しい子供のためには、少々のことは目をつぶらねばならない。男女平等という名の下で母性本能を失った人類は、進化した父性本能によって子孫を守るしかないのだ。
 僕は、かすかに妻への殺意を覚えていたが、それもすぐに子供の泣き声とともに消えて行った。





(2009年12月作成)




犬山ノート:
 20代女性の約7割が子供はいらない、と考えていることが、とある世論調査で明らかになりました。家庭に興味を示さず仕事に打ち込む女性も増えて、晩婚化は年々進んでいます。数少ない子供の多くは寂しく保育所に預けられ、子供の虐待が頻繁にニュースに登場します。
 男女平等という名の下に、先進国の人類は、生物として大切なものを失おうとしているのではないか。この悪い流れがエスカレートするように進んで行ったら、と考えてしまいます。


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