懸賞金生活

犬山 翔太
 
 エル氏は、懸賞金で生活している。
 懸賞といっても、葉書やメールで店へ応募して、くじで当たる昔ながらの懸賞金ではない。
 容疑者の居場所を突き止め、警察に通報して懸賞金を稼ぐのがエル氏の仕事なのである。危険な仕事だが、やりがいはある。

 最近は、様々な容疑者に懸賞金がつくようになった。かつて、懸賞金がなかった頃は、多くの殺人事件や強盗事件が迷宮入りとなっていた。
 しかし、警察が懸賞金を多用して以降、その効果が表れて検挙率が大幅に上がったことから、懸賞金は、天井知らずの様相を呈し始めた。
 巨額詐欺事件の容疑者、何人もを殺害した凶悪犯、マフィアのボス、爆破事件を起こしたテロリスト。そういった大物には、一生遊んで暮らせるほどの懸賞金がかけられるようになったのだ。

 また、小さな事件でも、ある程度の懸賞金はもらえる。たとえば、すりや痴漢を捕まえただけでも、半年は遊んで暮らせる賞金がもらえるのである。
 懸賞金のせいで徐々に犯罪が減るのではないかという噂もあったが、長引く不況のせいで一向に犯罪は減らない。そのため、警察からの懸賞金稼ぎは、エル氏にとってサラリーマンより魅力的な職業となった。今でも、エル氏のように脱サラをして懸賞金稼ぎに転向する者は多い。

 エル氏は、先日、男性15人を次々と結婚詐欺で陥れ、多額の金を得ていた女がこの街に潜伏しているという情報を手にした。
 そして、エル氏は、その女の居場所を突き止めるため、女の目撃情報があった地区に入った。そして、このホテルを拠点に女の足取りを追っているのだ。
 今日がホテル滞在3日目になる。女は、偽名を使い、整形をしたり、変装をしたりして、巧みに別人になりすましているらしい。

 それでも、エル氏には、女の居場所をかなり絞り込めてきた手ごたえがあった。おそらく2、3日中には居場所を突き止められるだろう。そうなれば、警察に通報し、10年は遊んで暮らせる現金を手にできる。
 エル氏は、そんなことを考えながら、ホテルのレストランでワインを飲んで夕食をとり、自分の部屋へ戻った。
 そして、部屋の電気を付けたとき、浴室から黒い衣装に黒い革手袋をした2人の男が飛び出してきた。そして、1人が無音銃をエル氏につきつけた。
「動くな」
 エル氏は、事態が飲み込めず、凍りついた。
 男たちの1人が低い声で言った。
「お前が有名な懸賞金稼ぎエルだな」
「い、いかにも。いったい何者だ、君たちは」
 エル氏の声は、かすれた上に震えている。
「俺たちも、懸賞金稼ぎだよ。俺たちも、お前と同じ女を追っている。だから、邪魔されると困るんだ。だから、お前には消えてもらいたい」
 エル氏は、頭の中を整理した。この男たちは、私の部屋へ密かに侵入し、私の命を狙っている。どうやら懸賞金を先に取られるのを恐れているようだ。
「ちょっと待て。私を殺したら、君たちは犯罪者だぞ」
「言われなくとも、そんなことは承知だ。以前、お前には現金輸送車襲撃事件の容疑者を先に発見され、煮え湯を飲まされたことがある。その二の舞はごめんなのだ」
「落ち着いてくれ。話をしよう。懸賞金は3人で3等分してもいい」
「そんな話には乗らない。俺たちは、懸賞金を稼ぐためなら手段を選ばない懸賞金稼ぎの犯罪者集団なのだ」
 相手が言い終わらないうちにエル氏は、内ポケットから無音銃を取り出したが、撃つ一瞬前に、エル氏は、相手から銃弾を浴びた。





(2009年12月作成)




犬山ノート:
 警察は、迷宮入りが懸念されていた事件の容疑者に1000万円の懸賞金をかけました。しかも、間接的にではあるが、それが逮捕へつながっていたのにも驚かされました。
 しかし、それなら懸賞金を多用すればいいのだ、という意見は眉唾ものです。有効な方法ではあっても、多用すれば、社会はまた悪い方向に進み始めるのではないか、と想像してみました。
 結局のところ、容疑者の検挙率を上げても、犯罪そのものが起きる原因を撲滅しない限り、解決しないのでしょう。


Copyright (C) 2009- 究極のストーリー All Rights Reserved.